東京高等裁判所 昭和25年(ネ)1452号 判決
控訴人が被告を変更した後の訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は「原判決を取消す。茨城県知事が別紙目録記載の土地につきなした昭和二十二年十月二日附買収処分は無効であるから、右土地が控訴人外三名の共有であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は、原判決事実摘示の通りであるから、これを引用する。
三、理 由
よつてまず本訴の適否について審案する。
控訴人は、原審において、(一)当初茨城県知事を被告として、被告が別紙目録記載の農地につきなしたる昭和二十二年十月二日附買収令書の無効なることの確認並びに前記農地に対する右買収処分及び売渡処分の取消を訴求していたが、(二)その後昭和二十五年五月九日の口頭弁論において、被告を国と変更し、(三)更に同年八月一日の口頭弁論において、請求の趣旨を変更し、本件農地につき控訴人(第一審原告)が訴外斎藤なつ、仲田重吉及び渡辺すゑと共に所有権を有することの確認並びに前記買収処分の取消を求める旨を申立て、当審に至つては、右農地が控訴人外三名の共有なることの確認を訴求するものであること、並びに控訴人が請求原因として主張する骨子は、原判決事実摘示(昭和二十五年十一月二十五日附更正決定を含む)に記載された通りであつて、これは控訴人が原審に訴を提起して以来何等変更をみないことは、本件記録に徴して明白である。
控訴人が、茨城県知事を被告として当初原審に提起した訴は、前述の如く、買収令書の無効確認並びに買収処分及び売渡処分の取消を求めるものであつて、右買収処分及び売渡処分の取消を求める請求は、暫く論外におくとするも、右買収令書の無効確認を求める請求は、要するに買収令書の交付による買収処分の無効なることの確認を訴求するものに外ならないことは、弁論の全趣旨に徴して明かであるから、少くとも該請求は、行政事件訴訟特例法第二条にいう「行政処分の取消又は変更を求める訴」には当らないものと解すべく、従つて右請求については、同法第七条の規定は、当然にはその適用をみないものといわなければならない。しかしながら、本件の如く、茨城県知事が国の行政機関として行つた行政処分の効力を争い、処分自体の無効なることの確認を求める訴は、前記特例法第一条にいわゆる「公法上の権利関係に関する訴訟」に外ならないものというべきであるが、元来行政事件訴訟特例法の抗告訴訟にあつては、処分をなした行政庁が、当該事項について権限をもつ国又は公共団体の機関たる立場において、便宜上、形式的に訴訟当事者となるも、その実質はどこまでも国又は公共団体を相手方とする訴であることを考慮にいれ、更にこの種の行政処分無効確認の訴訟は、当該行政処分の違法を攻撃してその無効の確定を求める点において、いわゆる抗告訴訟と共通の性格を有するものであることを併せ考えると、前述の如く、公法上の権利関係に関する訴訟である前示請求についても、右特例法第七条の類推適用があるものと解すべきである。従つて控訴人が、昭和二十五年五月九日の原審口頭弁論に至つて、その請求を変更することなく、単に被告を茨城県知事から国へ変更したことは、相手方を誤つたことにつき控訴人に故意又は重大なる過失の認められない本件においては、右特例法第七条の規定によつて許さるべきものである。
しかるところ、被告の変更が適法になされた後、控訴人は、昭和二十五年八月一日の原審口頭弁論において、本件農地が控訴人外三名の共有に属することの確認並びに右買収処分の取消を求める請求に変更し、更に当審においては、前記農地が控訴人外三名の所有なることの確認を訴求するに至つたことは、前述の通りである。而して控訴人が被控訴人国に対する当初の請求と、その後敍上の如く変更された請求とでは、その訴訟の目的たる法律関係については、前者が買収処分の無効確認を求める点において、公法上の法律関係であり、後者が本件土地所有権の確認を求める点において、私法上の法律関係であるという相違はあるけれども、後者については、弁論の全趣旨からみると、控訴人は、茨城県知事の行つた買収処分は無効であるから本件農地の所有権が控訴人等に属するものであると主張するのであつて、その争訟の主眼は、茨城県知事が国の行政機関として行つた農地買収処分が無効であることの判定を求めるものに外ならないと解すべきであるから、両者とも、訴訟の実質においては何等かわるところがなく、かつ両者における請求原因たる事実関係の骨子には別段相違するところのないことは前述の通りであるから、後者の請求は、前者の請求と較べて、その請求の基礎に変更のないものと解すべく、しかも請求を変更することによつて訴訟手続を著しく遅滞せしめたものとは認められない。従つて敍上の請求の変更は適法に許さるべきものである。
しからば控訴人が前述の如く、被告を茨城県知事より被控訴人国へ変更し、ついでその請求をも変更するに至つたことは、許さるべきものであるから、結局本訴は適法である。
よつて進んで本訴請求の当否について判断する。
本件農地は元訴外仲田すての所有であつたところ、沢山村農地委員会では昭和二十二年七月二十二日右土地に対し仲田すてが不在地主であるとの理由によつて買収計画を樹立し、次いで茨城県知事も同年十月二日仲田すてに対し右農地を買収することを定め、該買収令書が昭和二十三年四月十二日訴外仲田重吉に交付された事実は、本件当事者間に争いがない。
控訴人の主張するところは、要するに、沢山村農地委員会が本件農地に対する買収計画を樹立した当時においては、その所有者たる仲田すては既に死亡していたものであるから、右買収計画は権利義務の主体となり得ない虚無人を相手方として定められたものであり、茨城県知事もまたこれを権利主体として買収処分をなしたものであるから、該買収処分は違法なる行政処分として、取消をまつまでもなく当然無効である。従つて右土地の所有者は依然として仲田すての相続人である控訴人外三名の共有に属するものであると、いうことに帰する。
なるほど成立に争いのない甲第一号証ないし第三号証に徴すると、仲田すては既に前示買収計画の樹立された以前である昭和二十二年五月十九日に死亡しており、控訴人が前記仲田重吉、斎藤なつ及び渡辺すゑとともに、その相続をなしたことが明かである。
しからば前記買収計画の樹立された当時、従つてまた右買収処分のなされた当時においては、その行政処分の名宛人たる仲田すては既に死亡しており、本件農地の所有権は相続人たる控訴人外三名に帰属していたものである。しかしながら前示行政処分の名宛人が既に死亡していたものとすれば、その名宛人を誤つたことにおいて、行政処分として瑕疵あるを免れないけれども、右行政処分を目して、直ちに、権利義務の主体となり得ない虚無人を相手方とするものとして、これを当然無効であるとなし得べきものであるとは、にわかに断定し得ないところである。
すなわち、自作農創設特別法第十一条において、農地の所有者に対してなされた買収手続は、その承継人に対してもその効力を及ぼすべき旨を規定している法意から考えると、本件の如く買収処分が、仲田すての相続人の一人である仲田重吉に対して買収令書の交付されたことによつて行われた場合においては、買収処分の対象となつた農地の所有名義人が既に死亡しており、その所有権が相続人たる控訴人等に移転していたものとしても、当該処分は結局処分当時の権利者である控訴人等に対してなされたものであつて、右処分の名宛人を既に死亡せる仲田すてとしたことは、単に土地所有者の表示を誤つたものに過ぎないと解するのが妥当である。
してみると、前示買収計画従つてまたこれに基く本件買収処分は、形式的には既に死亡している仲田すてを名宛人としているが、その実体においては相続人たる控訴人外三名を相手方とするものであると、認めなければならない。従つて右買収処分を目して当然無効なりとする控訴人の所論は採用できない。
しかるところ右農地に対する控訴人等の所有権を肯定するについては、右買収処分の無効であることが前提となるものであるから、前述の如く買収処分が当然無効であるとは断定し得ない以上、右農地に対する控訴人外三名の所有権の確認を求める控訴人の請求は理由ないものというの外なく、従つて控訴人の本訴請求は排斥を免れないものである。
しからば控訴人の本訴を不適法として却下した原判決は不当ではあるが、控訴人の請求は結局棄却さるべきものである。
よつて民事訴訟法第三百八十六条に則り原判決を取消した上、控訴人の本訴請求を棄却し、訴訟費用については、控訴人が前述の如く適法に被告を変更したことにより、変更前の被告に対する訴は、行政事件訴訟特例法第七条第三項によつて取下げたものとみなされるから、被告を変更した後に生じたものにつき、民事訴訟法第九十六条、第八十九条を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)
(目録省略)